思いつくままに-その2

茶店を出ると蒸し暑い空気が皮膚にまとわりついてきた。
後ろを振り向くと、店内で和美が支払いをしている姿が見える。
仁が柚木と話をすることに決まったせいか,心なしか明るい表情をしているようだ。
(アイスティー1杯で有給半分か。相変わらず高い買い物だ……)
仁の口元には苦笑が浮かぶ。
「おまたせっ,どうしたのそんな変な顔して?」
「外は暑いなって思ってただけさ」
「もう夏だもんね。じゃ、あたしは買い物して帰るから、柚木君によろしくね」
「へいへい」
仁はそう言って走り去る和美を見送った。


仁と和美は中学生の頃に学校でおきたちょっとした障害事件がきっかけで知り合い,二人は初対面にもかかわらずすぐに意気投合し、事件の解決に少しだけ貢献することとなった。
それ以来十数年、仲のいい友人関係を続けているのだが彼氏が変わるたび,喧嘩するたびに愚痴を聞かされる関係としても続いていた。
(和美のこと好きになっていれば,もう少し変わったのかな?)
和美が振られた時 ──彼女から振ったことは今まで一度もない── いい雰囲気になったことは幾度もあったが,仁にとって和美は仲のいい女友達でしかなかった。
大学生になり,和美がわがままに付き合える男性──柚木と付き合いだした時は,愚痴の回数が減ると喜んだものだったがなんら減ることもなく今日に至る。


柚木が定時退社するとして18時。アポだけでもとろうと取り出した携帯のディスプレイには「15:16」の表示が点灯していた。